英語歌詞との対比 — 「対決」

— Every man is born in sin, Every man must choose his way —

 ミュージカル「レ・ミゼラブル」の日本語訳詞は、非常によくできていると思う。しかしどうしても原語による音数の違いから、日本語版では元歌詞を伝えきれない部分が発生する。

 そこで、既に英語バージョンに馴染みのある人にとっては意味のないことながら、個人的に「ここは英語詞を聴いた方がより面白い・理解が深まる」と感じた部分を取り上げてみるシリーズ、まずはジャン・バルジャンとジャベールの「対決」から。

嘘をつけ お前みたいな奴
そうだ 死ぬまで変わるものか

レ・ミゼラブル 日本公演ライヴ盤(東芝EMI)

 日本語版の歌詞で「お前みたいな奴、死ぬまで変わるものか」と纏められている部分は、英語歌詞ではさらに次の部分で繰り返され、

A man like you can never change.
A man such as you.

Men like me can never change.
Men like you can never change.

Les Misérables - The Complete Symphonic Recording (Fisrt Night Records)

 となっている。対句として、俺のような男もまた死ぬまで変われないのだ、と彼は言うのである。これは自己の生き方について言っているのだろうか、それともその後に続くフレーズの原罪ともいうべきものについて言っているのだろうか。

 そしてバルジャンが「俺の生き方わかってないな」(英語では "You know nothing of my life." さらに続くくだりで "You know nothing of the world." とも言っている)と言ったのに対して、 "You know nothing of Javert." と返すジャベール。お前もまた、俺について何ひとつ知りはしないのだ。そして、それに続いて語られるくだりが「牢獄で俺は生まれた……」となるわけだ。日本語版だと、唐突に自分の過去を語り出すかのようだが、本来はこういう流れで内容的に繋がっている。

 そして、

生まれたことが
罪そのものだ

レ・ミゼラブル 日本公演ライヴ盤(東芝EMI)

 この部分、日本語ではジャン・バルジャン個人について言っているようにも思えるのだが、そうではない。

Every man is born in sin.
Every man must choose his way.

Les Misérables - The Complete Symphonic Recording (Fisrt Night Records)

 あらゆる人間は罪を背負って生まれ、しかしその生きる道を選ばねばならない。そして己は法を護るという道を選んだのだ、ということなのだろう。原作における彼の生い立ちの紹介、

 ジャヴェルは骨牌カルタ占いの女から牢獄の中で生まれた。女の夫は徒刑場にはいっていた。ジャヴェルは大きくなるに従って、自分が社会の外にいることを考え、社会のうちに帰ってゆくことを絶望した。社会は二種類の人間をその外に厳重に追い出していることを彼は認めた、すなわち社会を攻撃する人々と、社会を護る人々とを。彼はその二つのいずれかを選ぶのほかはなかった。同時にまた彼は、厳格、規律、清廉などの一種の根が自分のうちにあることを感じ、それとともに自分の属している浮浪階級に対する言い難い憎悪を感じた。彼は警察にはいった。

ユーゴー、豊島与志雄訳『レ・ミゼラブル(一)』(岩波文庫)

 ということをまさに現すのがこの曲の歌詞である。

 この "You know nothing of Javert!" とバルジャンの "I am warning you Javert!" (日本語では「気を付けろ ジャヴェール」)、二人の叫ぶ "Javert" が重なって響く、英語版・日本語版ともに、とても好きなフレーズである。