仏語版 "Castle on a cloud"

— Une poupée dans la vitrine —

 幼いコゼットの歌う "Castle on a cloud"。英語版は、私が子どものころに初めて(ラジオで偶然に)聴いた想い出のレミゼナンバー。日本語版はこれにかなり忠実に訳されているようで、歌詞内容はほぼ同じ。

 けれどもこの曲で私がより好きなのは、パリ盤収録のフランス語版。題名は "Une poupée dans la vitrine" で「ショーウィンドウの中のお人形」というような意味であり、原作のエピソードを下敷きにしており、歌詞内容が英語版とは違っている。

 辞書を引きつつ歌詞内容を訳してみた。

C'est une poupée dans la vitrine
Qui me regarde et qui s'ennuie
Je crois qu'elle se cherche une maman
Et moi je veux qu'elle soit ma fille

Dans une maison pleine de jouets
Où les petites filles de mon âge
Cousent les toilettes de leurs poupées
Et ne font jamais le ménage

Je la vêtirai de dentelles
Elle aura des jupons de soie
Je veux que ma fille soit la plus belle
Et qu'elle soit fière, Qu'elle soit très fière de moi

C'est une poupée dans la vitrine.
Je la regarde et elle m'appelle
Si seulement je savais écrire...
J'la demanderais au Père Noël

ショーウィンドウの中のお人形
私を見ている
寂しがっているの
ママを探しているんじゃないかしら
私の娘にしてあげたい

おもちゃでいっぱいの家の中で
私くらいの小さな女の子たちが
お人形たちのドレスを縫っているの
決しておうちの仕事なんかしないのよ

レースのお洋服を着せてあげよう
絹のペチコートを履かせてあげよう
私の娘を誰よりきれいにしてあげたい
自慢のママだって思ってね

ショーウィンドウの中のお人形
私が見ると、私の名を呼ぶの
せめてお手紙が書けたなら
サンタクロースにお願いできたのに

 幼いコゼットは、ふつうの女の子が持ち得る(「ふつう」ではないかもしれないが、現実にいるであろう女の子の持ちうる)幸せ、けれども今の彼女にとっては絶対に届かないその幸せを、夢想してみる。

 そうして、憧れのお人形に自分を重ねる。孤独なお人形と孤独な自分。同時に彼女は、いわば「お母さんごっこ」の母親としての視点も持っているのだ。彼女の知らない「母親」という視点を演じてみる。お人形(あるいは自分)を優しく愛してあげるはずの母親。

 不憫な二重構造を、フランス語版のリトル・コゼットは、ひとつひとつ言葉をそっと丁寧に置くように歌っている。