コンプリート・シンフォニック・レコーディング
1988年録音、国際キャストによるコンプリート・シンフォニック・レコーディング盤。CD3枚組で、スタジオレコーディングだが(当時の)すべての曲目が収録されている。
10周年記念コンサートを先に聴いてしまったので、平均的には若干物足りなかったが、ノンカットの「コンプリート」盤であるという価値は高い。歌詞は全曲付属、キャスト名もアンサンブルまで全員記載されているが、誤植が多く、登場人物名やキャスト名にまで明らかな間違いがあるので、信頼性はいまひとつ。
ツッコミどころも多いけれど、一番よく聴いているCDかもしれない。なお他に、この録音からのハイライト盤CDもあり。
キャスト
JEAN VALJEAN : | Gary Morris (JEAN VALJEAN) | Gary Morris | (N.Y,) | ★★★★★ | |
JAVERT : | Philip Quast (JAVERT) | Philip Quast | (Sydney) | ★★★★★ | |
FANTINE : | Debbie Byrne (FANTINE) | Debbie Byrne | (Sydney) | ★★★★★ | |
MARIUS : | Michael Ball (MARIUS) | Michael Ball | (London) | ★★★★★ | |
COSETTE : | Tracy Shayne (COSETTE) | Tracy Shayne | (N.Y.) | ★★★★★ | |
ÉPONINE : | Kaho Shimada (ÉPONINE) | Kaho Shimada | (Tokyo) | ★★★★★ | |
THÉNARDIER : | Barry James (THÉNARDIER) | Barry James | (London) | ★★★★★ |
M.THÉNARDIER : | Gay Soper (M.THÉNARDIER) | Gay Soper | (London) | ★★★★★ | |
ENJOLRAS : | Anthony Warlow (ENJOLRAS) | Anthony Warlow | (Sydney) | ★★★★★ | |
GAVROCHE : | Ross McCall (GAVROCHE) | Ross McCall | (London) | ★★★★★ | |
L.COSETTE : | Marissa Dunlop (L.COSETTE) | Marissa Dunlop | (London) | ★★★★★ | |
アンサンブル | ★★★★★ | ||||
演奏(指揮: Martin Koch) | ★★★★★ |
★ は個人的なお気に入り度
キャスト雑感
ジャン・バルジャン: Gary Morris
硬めの神経質そうな歌い方で、若干狭量な感じがするのがちょっとイメージとは違うかも。とても泣かせるところもあり、妙にドライで白けるところもあり、その差が激しい。声のジャンル自体は、コルム系? それはそうと、キャスト紹介にある素の写真が、なんとも時代を感じさせる……。その他ところどころ、そこはかとなく面白いバルジャン。
ジャベール: Philip Quast
いつでもどこでも素晴らしい、今のところ私のベストジャベール。
ファンティーヌ: Debbie Byrne
ふつう。声は美しいがちょっと老け気味なのが残念。
マリウス: Michael Ball
これまたいつでもどこでも素晴らしいが、比較的にこの録音は甘さ控えめな気がする。詳しくはナンバーごとの感想参照。
コゼット: Tracy Shayne
可愛らしい系の幼な声なのだが、妙にポップ。それ自体は必ずしも好みでないというわけでもないけど、ちょっと高音が超音波のような発声のためなんとなくガクっとくるところがある。
エポニーヌ: Kaho Shimada
可愛くないところは可愛いのだが、可愛いところは可愛すぎてちょっとつまらない。ベスト死に様エポニーヌ。
テナルディエ: Barry James
超好み! ダミ声もさることながら、ノリもよく(コメディという意味ではなく音楽的に)、そして囁き声に滲む毒が目に見えるようで素晴らしい。巻き舌も素敵。それでいて単なる悪役でもなく、もちろん単なるコメディ・リリーフでもない、緩急のあるすさみっぷりに裏表ある感じ。レ・ミゼラブルのひとりとしての人間性、どん底の悲惨さが感じ取れる、とても貴重なテナルディエ。私的ベスト!
テナルディエの妻: Gay Soper
雰囲気はそれなりにあるのだが、妙に作り込んだ甲高い声になると、キャラクターが浅く感じられてあまり好きになれない。もうちょっと迫力ある系統が好み。テナルディエ夫が凄く好みなだけに、とても残念。
アンジョルラス: Anthony Warlow
とにかく、もの凄く巧い。オペラティックな朗々とした美声と、地声との使い分けがとても巧みで、低音も格好良いが、高音をすごい迫力で決めてくれるのが好き。闘志に燃えたカリスマ指揮官で素晴らしいが、革命に成功してしまいそうな安定感は原作のイメージからすると雄々しすぎ、アンジョルラスとしての私の理想とはややギャップがあることは否めない。
ガブローシュ: Ross McCall
とても巧いのだが、可愛らし過ぎるかも。ただ、常にではなく、裏表があるのが良い。この人も、死にかけぶりがいろいろな意味で凄い。
リトル・コゼット: Marissa Dunlop
超巧い。 "Castle on a cloud" もさることながら、レチタティーボが感涙ものの巧さ。子役というのはどうも「巧い」というだけで感動してしまうが、まあ巧いのは素晴らしいこと。
ジャベール、マリウス、アンジョ、テナルディエ、リトル・コゼットは必聴。でもジャベール、マリウス、エポニーヌは他でも聴ける上、バルジャンは趣味が分かれそう。国境をこえて厳選されているだけあって流石にそこまでおかしな人はいないが、素晴らしい人と、微妙な人の差が大きい。でもAnthonyの為に聴きましょう!
曲目と一言感想
聴きながらメモったので本当に雑感。
各曲の区切りは若干違うかも。ブックレットの歌詞と実際の区切りも違うので。一部の曲は、歌詞を見ながら聴いてみた。
Prologue
冒頭、若干パーカッションがうるさい。ジャベール(Philip Quast)は凛々しくて超かっこいい! 10周年コンサートを先に聴いてしまったので、殆ど違いがないのだけど。バルジャン(Gary Morris)は硬めの神経質な声。悪くないんだけどどうもバルジャンって感じじゃない気がする。司教様(Ken Caswell)はやや若々し過ぎ。
Valjean's Soliloquy (What Have I Done?)
なんだかこのバルジャンの演技、苦手かも。低音がいまいち、棒読みというか感情が伝わってこない。高音部のほうが綺麗。
At the End of the Day
アンサンブルが綺麗。工場長(Tim Bowman)は小悪党系でちょっと迫力がないが、それはそれで良いのかも。工場長の噂をする女性の一人がすごい可愛い。ファクトリーガール(Aline Mowat)がちょっとか弱くて物足りない。ファンティーヌ(Debbie Byrne)は声綺麗だけどちょっと老け気味。
I Dreamed a Dream
ファンティーヌのビブラートが凄い。
Lovely Ladies
水夫の笑い声が凄い。娼婦の一部ちょっと老け気味。髪を買う人の歌唱法がいまいち好みじゃない。バマタボワ(Martin Smith)が演技&歌共にいまひとつ、巻き舌ならいいってもんじゃない。
Fantine's Arrest
ジャベールはいつでもどこでも安定しててかっこいい。ファンティーヌはいい感じなのに、市長がやる気なさそう。
Runaway Cart
ジャベールの語尾のキレが素敵。
Who Am I? / The Trial
普通。重要なところなのだけど。
Fantine's Death
ファンティーヌ、死にそうにないです……。
Confrontation
バルジャンの気合いの入り方がなにかズレてる気もする。ジャベールは10周年とほとんど違いがわからない。英語版は、"Come with me, 24601!" っていうのが「一緒においで」って感じで可愛い。
Castle on a Cloud
リトルコゼット(Marissa Dunlop)は凄い! 歌もいいが、台詞(の歌)が超綺麗。マダム・テナルディエ(Gay Soper)はふつう。
Master of the House
コンプリート盤だから当たり前だが、お客の会話部分があるのが良い。テナルディエ良い感じ。毒々しくて裏表がありそうな悪党声。囁き声が素敵ー。この辺りからマダム・テナルディエはちょっと甲高い声になりすぎ。もっとドスを利かせてほしい。
Bargain - The Waltz of Treachery
突っ走ってる感じのバルジャン。テナルディエの巻き舌は絶好調。
Look Down
テンポが遅い。ガブローシュ(Ross McCall)は良い感じ。アンジョルラス(Anthony Warlow)は凄い巧くてカリスマもあるんだけど、ちょっと雄々しすぎる。美声なんだけどね。もっとも多分一般的にミュージカル版アンジョルラスはこういうイメージなのだろう。マリウス(Michael Ball)は相変わらず可愛い。
Robbery - Javert's Intervention (Another Brawl)
エポニーヌ(島田歌穂)は可愛くないところが可愛い、雰囲気があって素敵。ここに限っては日本語版より好きかも。英語の発音も、ネイティブではないことはわかるけれど巧い。ジャベールは相変わらずかっこよく、語尾のタメ具合が素敵。テナルディエはとてもメリハリがあって素晴らしい。好きだー。この場面をフィリップジャベールで聴きたいが為に買ったともいうので、この人で本当に良かった。しかしながら、テナルディエに Are you mad!? と叫ぶバルジャン、貴方のほうがmadな感じでおもしろ過ぎる。
Stars
素晴らしいー。10周年とほとんど一緒だがややこっちのが歌い方が柔和。えっと、でもどちらかと云えば10周年の方がスキ……。スターズの後にガブローシュの台詞が入っている。
Eponine's Errand
ガブローシュの台詞はこちらに入れたらいいのに。マリウスが最高。天然さを醸し出しつつ音楽的で、なおかつ声だけでも充分な演技力。凄いなあー。
ABC Cafe / Red and Black
クールフェラック(Jordan Bennett)がとても格好いいけど、最後だけ急にドスを効かせすぎなのは何故だろう。アンジョルラスはやはり貫禄がありすぎて、個人的にはもうちょっと神経質そうな感じも欲しい。でも、ついていきます! と思わせられる凄まじい安定感で、グランテールに Put the bottle down! というところなど、もう従わざるを得ない格好良さ。全体的に、単に譜面どおり歌っているのではなく、シャウト(というか純粋な旋律ではない台詞風の表現)を取り入れている率が高いのも好き。それでいてその切り替えがきわめてナチュラルなのが素晴らしい。譜面どおりの部分が非常に堅実に確立されているからこそ成り立つ高度な技という感じ。マリウスはやっぱり最高。囁くとこも響かせるとこも素敵。
Do You Hear the People Sing?
やっぱり一番好きな曲。コンブフェール(Tim Bowman)とクールフェラックはなんだかテナルディエができそうなハスキーヴォイス。フイイ(William Solo)はなんとなくアメリカンな感じだがまあいいかと。
Rue Plumet - In My Life
ちょっと異色のコゼット(Tracy Shayne)。あまりコゼットって感じじゃないかも。でも個人的に声は好き。よく言えば可愛らしい系の幼な声、悪く言えば品のない声。しかしバルジャンもなんだか王道(?)と違うものだから、マリウスが出てくるまで謎の異世界が繰り広げられる……。
Heart Full of Love
マリウス相変わらず素晴らしい。コゼットは高音がやや不自然。
Attack on Rue Plumet
この曲結構好きなのに、初めて真面目に聴いた。テナルディエとブリュジョン(Gary Beach)が超悪党ぽくて素敵。テナルディエ、 "Go Underground!" のダミ声シャウトが格好良すぎー。エポニーヌは可愛いし、マリウスはこの高速台詞でも完璧。そしてバルジャンはちょっとヒステリック。コゼットはやっぱりやや違和感が……ビブラートすごいなあ、母譲り?笑
One Day More!
コゼットの、"I was born to be with you〜!!" という金切り声はちょっときつい気がするが……そしてマリウスはあくまで他の部分に比べてだけど、前半はイマイチ。後半はとても素晴らしい。それに対してバルジャンは他の曲に比べて良い。エポニーヌは、ここに限らないけれど歌い方が非常にオリジナルキャストに似ている(英語の規範にしたのかな?)。アンジョルラスは相変わらず耽美さには欠けるがこれでもかというほどのカリスマ感を振りまいて登場、これで "Will you take your place with me?" とか朗々と歌われては、もう行くしかないという感じである。そしてやはり別な方向にカリスマオーラを放っているマリウスとの二重奏が、ほんとに素晴らしい。ジャベールも相変わらず素晴らしいんだけど、個人的にこの曲におけるジャベールが剰り好きではないので……なんとなく、ここでの彼の台詞の真意が未だによくわからないのである。単に説明的な台詞と考えた方が良いのかも知れないけど。
At the Barricade (Upon These Stones)
ふつう。
On My Own
普通に素晴らしいが、同じ人ならばやはり日本語版のほうが良いのは否めない。
Building the Barricade
ここに限らないけど、オーケストラがあまり好みじゃない。アーミーオフィサー(Rich Herbert)がやる気なさそうである。
Javert's Arrival
普通に素晴らしい。ガブローシュの、らいあー! がこっちに入ってる。結構あくどい感じで個人的にはスキ。
Little People
かと思えばこの辺のガブは妙に可愛くて、裏表ある。高音がすごい安定感。最後のアンジョの命令がものすごい気合い入っていてときめく。非二枚目声の多い学生陣だが、ジャベールとアンジョの美声が際だって良いのかも……。クールフェラック、イメージとは少し違うけれど過激な歌い方が好み。
Little Fall of Rain
エポニーヌにときめく。英語でもやっぱりベスト死に様エポニーヌ。
Night of Anguish
マリウスが名前はエポニーヌ〜っていうとこって、 Her name was〜 なのね……すでに過去形。
First Attack 〜 The Night
"Fire!" が超格好良い。ジャベールを逃がすバルジャン、なんだかいろいろと惜しいなあ。ジャベールはとても良いのだが。銃声がしょぼい。ところで、アンジョの、 "Marius, rest!" が鳥肌がたつほど優しく、そんなにマリウスを大事にしてるのか……? という、王者の風格かつ面倒見の良さそうなアンジョで、個人的な解釈とはちょっと違うのだけど。
Drink With Me
妙に常識人風のグランテール(Kenny D'Aquila)。マリウスの声量が際立つ。「gone by→乾杯」って、日本語訳詞は結構音を似せて作ってあるのね、芸が細かい……。 "Look Down" の「It'll come, It'll come→いつか、いつか」もそんな感じ。
Bring Him Home
かなりこのバルジャンが苦手になっていて覚悟していたら、これが案外良い。でも欲を言えばもうちょっと枯れた感じがいいんだけどな。
Dawn of Anguish
フイイの声は綺麗だと今さら気付く。
Second Attack (Death of Gavroche)
相変わらずマリウスの早口は華麗! 微妙に歌詞が違うんだけど。ガブかっこいい。 "I am old!" というバルジャンの声が妙に張り切って若々しいのがおかしい。そしてやはり銃声がしょぼい。しかし、ガブローシュの死にかけぶりが凄まじく、何やらこちらまで息苦しくなる。ある意味エポニーヌよりも凄い死に様であった。
Final Battle
アンジョルラスは最後の叫びまで素晴らしいが、最後まで雄々しく勇ましかった……。
Sewers - Dog Eats Dog
聞き流しがちな "Dog Eats Dog" を思わずじっくり聴かせるテナルディエ。 "run with blood〜" とかぞくりとする。哄笑も素敵!
Javert's Suicide
冒頭で対決みたいにバルジャンとジャベールの台詞が重なってる意味が今頃わかった。 "Give way, Javert!" と "Take him, Valjean!" でお互いの名前が重なるのね。粋だ。でも聞き取り辛いんだけど……重要なとこなのに。
そして自殺。ジャベールは、細かい息づかいに至るまで最高! 10周年よりちょっと悲愴な感じ、こっちのが良い意味で弱々しいかも。 "the law is not mocked" を鋭く囁くように歌ってるのがときめき。絶叫よりいいかもしれない! それにしてもフィリップは最高。何度聴いても涙が出てくる……惜しむらくは最後の絶叫音の冒頭がちょっと好みじゃないかも、しかしそこの部分のオーケストラのテンポが最高。ああなんて一長一短な。
Turning
私にはジャベールが死んだ直後に落ち着いて物を考えるゆとりはない……。
Empty Chairs at Empty Tables
感情放出系の歌い方で、とてもぐさっと来るんだけど、しかしなんだかちょっとクライマックスが大仰すぎて、演歌調(?)。敢えてマリウスは、ここであまりにキャラ変わりすぎないでほしい。
Every Day (Marius and Cosette)
コゼットはわりと可愛いんだけどやっぱり高音の上がり方がキツイなあー。
Valjean's Confession
語るところはいいんだけど、後半が妙に小者っぽい。人間らしい面が出ているのかもしれないが、総じてこのバルジャンは私的良し悪しにむらがあって、落ち着かない。
Wedding Chorale / Beggars at the Feast
普通。
Epilogue (Finale)
なぜか突然、ここに来てバルジャンの死にかけ声に超感動! 舞台を見てもここで泣けたことがなかったが、この散々ここまで失礼な感想を持ち続けたバルジャンでなぜか泣けるとは。コゼットが多少無気力そうというか棒読みなのも気にならないよ……。歌詞を見ながら聴いたからだろうか。なんだか私はやっぱり言語は聴覚よりも視覚から入ってくるのかもしれない。